私はこれまで、ワインのご紹介に一方ならぬ情熱を注いできました。
あるいは、その時々のワインとの出会いが、私の人生をこの道に導いたともいえるでしょう。
昔と違って、世の中にワインの情報は溢れていますが、そのほとんどはノイズだと考えています。
「有名生産地」「評論家が○点」「○アワードで金賞」なんてことよりも、本当に重要なのは、
「自分にとって最高のワイン」
「今までのは何だったんだ、と世界が変わるワイン」
「ワインを媒介して得た体験や、出会えた人達」
ではないでしょうか。
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自分にとっての最高のワインに出会う旅というものは、なかなか困難な道のりです。
ある時、ワイン生産者来日ディナーで同じテーブルになった某有名ワインショップのバイヤーさんと話をしていて、彼はこう言いました。
「日本に輸入されているワインに不味いモノは無い。それを輸入しようと判断した会社のセレクションを経ているから」
それを聞いたときに奇妙な感じがしました。
「日本で封切られる映画が全て面白かったり、輸入されている食品が全て美味しいとでも思っているのだろうか?」
またある試飲会では「ウチでは3000円以上のワインは売れないから」と言っているバイヤーもいました。
「それは、あなたが3000円以上のワインの魅力を伝える力が無いからでは?」と思いました。
なぜなら私のショップでは3000円以上のワインが飛ぶように売れていたからです。
自分の感覚をフルに働かせてテイスティングし、良いワインを発掘し、自分の熱意を込めてご紹介すること。
それだけが、お客様とワインの出会いを仲介する者の存在意義だと思います。
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これまで自分がいいと思うものだけを選んでまいりました。
年間6000種ものワインをテイスティングする中から太鼓判を押せる逸品は約20種ほどです。
特に価格以上の感動を与えてくれる良い物を見つけた時の喜びはひとしおで、体験したことの無いような味わいのワインや、料理と絶妙の相性を持つワインを発見する度に、この職に就いてよかったと思うのです。
私がオススメするワインには、あなたの人生を豊かにしてくれる力があると信じています。
例えば・・・・
食事の席では「ワインを選んで」と頼まれるようになった。
プレゼントしたワインが「美味しかった」と喜ばれた。
一年前より、ワインを美味しく感じるようになった。
評論家のポイントよりも自分の好みのほうが大事だと気付いた。
ワインを飲む場面の主役はワインではなく、「人」だ。
ワインを飲みながら、ワイン以外の話で盛り上がるのが楽しい。
ワインと料理がお互いの個性を引き出し合うマリアージュ(結婚)は素晴らしい。
ワインで繋がる仲間を愛し、ワインが広げてくれた世界に感謝する日々だ。
本当に良いワインには不思議(Wonder)があります。他の飲料では味わえないような、あまりの美味に目を見張るような幸福な体験があるのです。
さらにその魅力を味わう為には、「味わう側にも共鳴する感性が必要」です。
「ワインと食材」の組み合わせをマリアージュといいますが、私は「ワインと人」の幸福なマリアージュを実現したいと考えています。
マーケティングにお金を掛けたワインではなく、知られざる掘り出し物を。
アイテム数で勝負するのではなく、審美眼の精度で勝負を。
お客様は安売りを求めているのではなく、発見と驚きと感動を求めているのだ、と確信しています。
これからも「あなたのお勧めだから」と信頼していただけるお客様に、自分の感性で選んだ確かなワインをご紹介することで、ワインのある豊かな人生のお手伝いをさせていただけますよう努力して参ります。
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世界ソムリエコンクールの日本代表に選ばれた佐藤陽一氏は、ソムリエという仕事を「森林ガイド」に例えます。
森を歩く時、一人でただ歩いているだけでは、豊かな自然をすべて味わい尽くすのは難しい。
しかし、ガイドと一緒に森を歩いたらどうだろうか?
こずえの陰で鳴く鳥のさえずりや、季節の草花の移り変わり、珍しい動物や昆虫など・・・。
ガイドの案内によって、一人で歩いている時には気付かないような、自然の奥深さを満喫できる。
ソムリエも、ワインという奥深い世界を案内するガイドだ。
ソムリエの仕事はワインを語ることではない。ワインで人を幸せにすることだ。
(NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」より)
ワイン通になるということは、ワインに詳しくなることではなく、ワインという森を楽しむ達人になること。
ワインの知識の目的は、薀蓄を語るためではなく、あくまでも「自分とゲストがもっと楽しむ」ために。
ワインの知識をひけらかすことと、教養があることとは違います。教養がある人とは、楽しむ才能を磨き、人を楽しませることを楽しむ感性を持っている人のことです。
「ワインの世界は、複雑で、多様で、覚えることが沢山あって・・・」と敬遠されがちです。
でも優れたガイドがいて、
「これをおさえておけば特徴がつかめます」
「まだ知られてない掘り出し物があるんですよ」
「贈り物に選ぶにはここがポイントですよ」
「これを飲まないなんて、もったいない」
と教えてくれたら・・・。
きっと、思いがけない発見が、あなたにワインを楽しむコツを教えてくれるでしょう。
これからご案内するワインを体験していただくことによって、ワインの世界の「土地勘」が養われ、目の前に広がる奥深い旅を何倍にも楽しむことができるでしょう!
長文をお読みいただき、ありがとうございました。